2012年12月24日月曜日

線だけが表現できるもの〜ベン・シャーン展


丸沼芸術の森が所蔵する作品を中心に、埼玉県近代美術館で、ベン・シャーン展 線の魔術師、という展覧会が開かれた。

ベン・シャーンは、あまり日本ではメジャーな存在ではないが、この展覧会を見た人は、その名前を深く心に刻んだことだろう。

ベン・シャーンには、絵画はもとより、壁画、雑誌の表紙のイラスト、挿画、ポスターなどの多彩な作品があり、今風に言えば、グラフィックデザイナー、とでもいうべき存在だろうか。

ベン・シャーンは、1898年に、当時はロシア帝国の領土内にあった、現在のリトアニアに生まれ、ユダヤ人への迫害から逃れ、家族とアメリカに亡命、石工として働きながら、美術学校や大学に通った、という珍しい経歴を持っている。

そうした背景があったからか、ヒューマニズムの意識が高く、アメリカにおける社会的な活動への支援を、生涯を通じて、芸術を通じて行った。


この展覧会では、サブタイトルにもあるように、ベン・シャーンの線による表現力の高さに、ただただ見入ってしまった。

本当に、最小限の線だけをつかって、人物の表情、愛らしい動物の姿を表現している。

無名の人々は勿論、トルーマン、マーチン・ルーサー・キング、アインシュタイン、ガンジーなどの歴史上の人物も、その人間の本質を、見事に捉えている。

また、手先の表現も素晴らしい。握りあった手と手、握りしめた手、振り上げた拳、楽器を持つ手など。どの手も、独特の表現で、見るものの心に迫る。

会場の最後には、死の前年に出版された、マルケの手記の版画集、の版画作品が展示されていた。ベン・シャーンが、28才の時にその本に出会い、大きな影響を受けたという。

抱き合う人物、羽ばたく鳩、ペンを握る手、人物の表情など、まるでベン・シャーンの代表的な作品のダイジェスト版のような内容になっていて、印象に深く残った。

この展覧会のベン・シャーンの作品は、すべてが線によってだけ描かれていた訳ではない。美しい色合いの水彩画などもあった。

しかし、多くの線による作品を見ていると、線だけが、表現できるものが、確かにあるのだと、思わざるを得なかった。

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