2012年12月24日月曜日

一人の画家の人生という名の作品〜松本竣介展


世田谷美術館で開催された、松本竣介展を訪れた。生誕100年を記念した、その短いながらも充実した人生をたどる、大規模な展覧会だった。

松本は、1912年に宮城県で生まれ、幼少時代を盛岡で過ごした。最初のコーナーには、その盛岡の風景を描いた作品が並んでいた。

1935年に二科会に初入選を果たした。全体的に青い色を使い、家や人物を線で描くという画風の絵が多く並んでいた。

この、対象を線で描き、全体をある基調の色で描く、というスタイルは、松本の生涯に一貫して流れているものだ。


松本を代表する、東京や横浜の風景を描いた作品。ニコライ堂、東京駅の周辺、横浜の運が沿いの風景・・・。

そうした風景画の名では、それまでバラバラだった線と色が、ぴったりと融合している。

人物画においては、その傾向がより強い。自画像や家族を描いた絵ではとくにそうだ。対象が身近な存在であるほど、線と色の乖離が少ない。

松本は、惜しくも1948年に病いで亡くなってしまったが、会場には、そうした絵画だけではなく、松本が発行していた雑誌、他の雑誌に寄稿した文章、手紙、などの資料も多数展示されていた。

雑記帳、といわれるエッセイでは、松本の日常のことや、美術に対する松本の考え方が綴られている。その文章は、画家の余芸、というレベルのものを明らかに超えている。

戦争中、松江に疎開していた妻に宛てた手紙の数々。そこには、松本の家族に対する熱い愛情が感じられる。

会場に入るまでは、松本の絵画をじっくり味合おう、と思っていたが、会場を出たとき、その作品だけでなく、松本の人生そのものを目にした、という印象が強く残った。

私が見たものは、一人の画家の、人生、という名の作品だったのかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿