2013年3月31日日曜日

肖像写真の裏側〜エドワード・スタイケン写真展(世田谷美術館)


世田谷美術館で、スタイケンの展覧会、エドワード・スタイケン写真展 モダン・エイジの光と影1923-1937、が開催された。

会場には、スタイケンが主にファッション、ポートレイト写真を撮影していた、1920〜1930年代の作品、およそ200点ほどが展示されていた。

モデルには、錚々たる人物の名前が並ぶ。

政治家のウィンストン・チャーチル、映画監督のセシル・デミル、グレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ、フレッド・アステア、ダグラス・フェアバンクス、作曲家のガーシュイン、ピアニストのホロビッツ、指揮者のストコフスキー、などなど。

スタイケンは、モデルがどんな職業かどうかは、あまり興味がなかったという。ただ、どの人物も、皆、興味深い人たちだった、と語っている。

スタイケンにとっては、モデルは、あくまでも自分の写真の中の素材だったのだろう。だから、その人物が、どんなことを職業にしているかは、関係がなかった。ただ、その人物が魅力的であれば、それを引き出して、素晴らしい写真を撮ることができた。

展示されていた写真は、どれもが、絵に書いたような肖像写真だった。政治家は政治家らしく威厳を保ち、女優は女優らしくキレイなドレスに身を包み、音楽家は音楽家らしくピアノの前でポーズを取っている。

というよりも、スタイケンこそが、今日から見れば、紋切り型とも言える、そうした肖像写真を生み出した。

中でも、モデルで、その後写真家にもなったマリオン・モアハウスは、スタイケンのお気に入りのモデルだった、という。

スタイケンは、モアハウスが、どんな洋服でも見事に着こなしてしまう様子に、いつも感心していたという。会場には、美しいドレス、東洋風のガウン、乗馬服などの様々なスタイルのモアハウスの写真が並んでいた。

スタイケンは、1879年にルクセンブルグに生まれ、家族とともにアメリカに移住し、画家を目指していたが、写真家のスティーグリッツに誘われ、写真の世界に飛び込んだ。

始めは、スティーグリッツの提唱するピクトリアリスムという芸術的な写真を撮っていたが、その後、商業写真に転身した。

スタイケンは、当時、芸術はいつの時代でも、商業的な芸術が最も優れていた、と語り、写真家仲間からは、厳しく批判されていたという。

第2次世界大戦が始まると、予備軍に志願し、実際に戦場にも赴き、ドキュメンタリー映画を撮影し、アカデミー賞を受賞した。

戦後は、ニューヨーク近代美術館の写真部門のディレクターに就任し、その後、多くの写真展を企画した。

芸術的な写真、スターのポートレート、戦場の写真。あまりにもジャンルの違う素材を撮り続けたスタイケン。しかし、彼は、つねに自分の興味のある対象を撮り続けただけだったのだろう。

会場の入り口には、撮影スタジオにおける、セルフ・ポートレートが1枚だけ展示されていた。

セットの前で腰を下ろし、モデルかスタッフに笑顔で話しかけているスタイケンが写っている。その爽やかな笑顔は、彼の性格を良く表しているようにも、そのような人物に写るように自ら演出しているようにも、どちらにも見えた。

スタイケンという、写真家という枠では、捉えきれないこの人物の一端に触れただけのような、煮え切れない印象を持って、会場を後にした。

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