2013年3月17日日曜日

ラファエロがいっぱい〜ラファエロ展(国立西洋美術館)


日本における展覧会で、これほど多くのラファエロの絵画を鑑賞できる日が来るとは、まるで想像していなかった。

東京、上野の国立西洋美術館で開催された展覧会には、23点ものラファエロが描いたと思われる作品が展示された。

ラファエロというと、まっさきに聖母子像が思い浮かぶ。この展覧会の目玉である、大公の聖母は、その代表作の一つ。

黒い背景に、幼いキリストを左手に抱いた聖母マリアが、ぼんやりとした光の中に浮かんでいる。マリアは、やや伏し目がちに、少し右に首を傾げている。ラファエロは、マリアの表情の中に、まさに母性そのものを描いている。

幼いキリストの表情は、母の胸に抱かれている安心感と、自分の厳しい将来を予感している緊張感で、穏やか中にも、やや不安げに見える。

マリアは、赤い色の服の上に、青いガウンをまとっている。キリストの磔刑を象徴する赤と、平安を象徴する青。ラファエロは、様々な記号を使って、この母子像を描いている。

背景の黒い部分は、今となっては、聖母子を画面に浮き上がらせる効果を生み出しているが、実は、もともとは、背景には景色が描かれていたという。

無口な女(ラ・ムータ)は、ルネサンス時代によく描かれた、女性の半身像。描かれている女性は、決して美化されていず、現代でもよくいそうな表情をしている。

髪の毛は、かなりおおざっぱに描きながら、女性の着物の文様は、実に細かい筆使いで描かれている。その文様が、ラファエロが、ヴァチカン宮殿のインテリアのためにデザインした文様と同じだったのが、印象に残る。

ラファエロは、ヴァチカン宮殿内の、教皇のための施設の中に、アテネの学堂を始めとした沢山の作品を描いたが、絵を描くだけでなく、回廊全体の設計を行ったり、そこに飾られるタイルのデザインなども行っていた。会場には、そのタイルの一部も展示されていた。

入り口に展示されていたラファエロの自画像。端正な、穏やかな顔立ちで、一般的に考えられているラファエロのイメージそのまま。これは1504年から1506年頃に描かれた。

もう一枚の自画像が展示されていたが、こちらは1518年から1520年頃に描かれた。こちらはヒゲ面で、ワイルドな印象の自画像で、まるでカラバッジオのようなイメージ。

ラファエロは、わずか37才で亡くなってしまったが、純粋に絵を描き続けた若者、という印象が強い。しかし、実際は、法皇に取り入るために様々な努力を惜しまなかったり、女性関係も派手だったようで、イメージとは違った人物だったようだ。

4世紀にカッパドキアに生まれた、キリスト教の聖人を描いた、聖ゲオルギウスと竜。ゲオルギウスが、馬にまたがり、竜を退治する、という伝統的な構図。

ゲオルギウスがまたがっている馬は、おいしいエサをいっぱい食べているのか、たくましく肥えていている。それに比べ、竜は、小さく、弱々しい。退治される竜の方に、同情してしまう。

同じく、動物が描かれている、エゼキエルの幻視。聖書のエゼキエル書に記されている不思議な生き物を、翼の生えた牛、ライオンそしてワシの姿で描いている。

最後のコーナーには、ラファエロ以降の影響を受けた画家たちの作品が展示されていた。

中でも印象に残ったのは、ペリン・デル・ヴァーガの聖母子像。ラファエロのものとは違い、マリアもイエスも、まっすぐにこちらを見つめている。イエスは、右手を上げ、小指と薬指を曲げ、他の3本の指を開いた不思議な印をしている。

マリアの方も、下に向けられた左手で、人差し指と中指を大きく開いている、こちらも不思議な印を作っている。

この展覧会の名前は、そのものずばりの”ラファエロ”。確かに、この展覧会を表現するためには、他の言葉は不要だ、と思わせる内容だった。

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