2013年3月24日日曜日

白と黒のコントラストに表されたもの〜マリオ・ジャコメッリ写真展(東京都写真美術館)


会場を入るとすぐに、ホスピスにおける人々を写した写真が展示されていた。

死を待っている人々、目を背けたくなるような写真もある。しかし、紛れもなく、そこには生がある。むしろ、生は、それらの写真の中で、余計、際立っている。白と黒のコントラストが、さらに、そこに写された生を、私たちの心の中に、否応もなく、放り込んでくる。

続いて、ルルドの泉をもとめて押し寄せる人々を写した写真が並べられていた。不死の病気を治すという、奇跡を起こす泉の水に、最後の望みを託した人々。

多くの車イスの人々が、画面一杯に写されている。白い画面を、斜めに横切るような巡礼者の列が、黒い影のように写された写真。

そこにあるのは、無数の生への執念。それが、この世の中のすべての出来事の裏に存在する。

会場のあちこちに、ジャコメッリの言葉がプリントされている。

”表現したいものがあれば、撮影することは、大して難しいことではない。”

イタリアの各地を写した写真の数々。何の変哲もない、大地の写真。時々、何を写したのか、よくわからないような写真もある。

”大地を、人間の肉のように感じ、撮影した。”

一見すると、どこにでもありそうな風景が並んでいる。しかし、じっとみていると、その強烈なコントラストのせいか、まるで別な世界の風景のようにも見えてくる。

印刷業という仕事を続けながら、平行してアマチュア写真家として、2000年に亡くなるまで生涯にわたって写真を撮り続けたというジャコメッリ。

その写真からは、紛れもなく、ジャコメッリという人間の視点が感じられる。

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