2013年3月3日日曜日

最後のユートピア 〜 アノニマス・ライフ 名を明かさない生命(NTTインターコミュニケーション・センター)


東京オペラシティーにある、NTTインターコミュニケーション・センターにおいて、アノニマス・ライフ 名を明かさない生命、という名の展覧会が開催された。

アノニマスとは、匿名、名前のわからない、個性がない、という意味を持っている言葉。展覧会では、ロボットと人間、男と女、個人というアイデンティティ、といった境界をテーマにした7つの作品を展示していた。

石黒浩が製作した、ロボットのリプリーQ2が、会場の一角に座っていた。座っていた、と書いたが、リアルなそのロボットは、実にリアル。本当のうらわかき女性が、座っているように見える。

微妙に手足を動かしたり、瞬きを繰り返している。近づいてよく見ると、眼球と眼元の肌の間にスペースが見え、ロボットということがわかる。そこまで意識しなければ、ロボットと気がつくまでには、時間がかかるかもしれない。

渡辺豪のアエウム。巨大なスクリーンに、少女とおぼしき大きな顔が映されている。しばらく座って眺めていると、瞬きしたり、口元を動かしたりする。何よりも、その眼に引きつけられる。

スプニツ子!は、菜の花を使ったインスタレーションを展示。震災後、菜の花が放射能を吸収する働きがある、ということを知ったことから、この作品を思いついたという。

歩くと、地中に菜の花の種を植える、という不思議な靴が、作り物の菜の花の畑の中に、白雪姫のガラスの靴のような雰囲気で飾られている。

自然の力が作り上げた、菜の花という植物に比べて、人間の作るアート作品の貧弱さが、強調されているようにも思われた。

かつては、名前を相手に知られることは、相手に支配されることを意味した。アノニマスとは、そもそも支配しようとする側からみた概念から生まれた言葉だ。

現代において、アノニマス・ライフ、名を明かさない生命であるということは、逃げ場がなくなった現代社会から、逃げ出そうともがく現代人たちの、最後のユートピアなのかもしれない。

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