東京国立博物館には、年に数回通っている。しかし、入り口を入って右手のある東洋館を訪れたのは、少なくとも、この10年間、記憶にない。
おそらく、他の人も、あまり訪れなかったのだろう。このたび、もっと多くの人に訪れて欲しいということで、リニューアルした。
リニューアルのテーマは、旅。
もともと、1968年に谷口吉郎によって設計された東洋館は、その構造が複雑だった。建物が横長で、それぞれの階を移動して、他の階に移動するには、長い距離を歩いて、端っこにある階段へ行かねばならない。
ところどころ、他の階に移動する小さな階段があるが、場所の配置が不規則で、まるで迷路に迷いこんだ感じがする。
そうした建物の構造を活かして、館内を歩き回ることを、旅、と表現したのだろう。その試みは、成功している。
館内の作品を、一部のものを除いて、自由に撮影できるのも、嬉しい。
これは、4階の中国絵画のコーナーに展示されていた、南宋の夏珪の作と伝えられる小さな水墨画。
こちらは、宋代の李氏という画家による、瀟湘臥遊図鑑。国宝。
遠くから眺めると、湖と山々の風景だけが見える。しかし、目を近づけると、小さな家々や、橋を渡る人々、などの細かい風景が見えてくる。
離れてみたり、近づいてみたり。この絵の前では、いくら時間を費やしても、絵の全体を見た気分になることができない。
清の乾隆帝は、この絵をとりわけ愛した。本人の賛が、巻の右端に書かれている。
この”呑”は、包み込んでいる、という意味だろう。気が、雲夢を包み込んでいる、といったところだろうか。
この絵の持つ不思議な力を、乾隆帝は、気、と表現している。
地下1階に、リニューアルに合わせて新設された、クメール美術の部屋。これまでは、展示するスペースがなかったという。
これほどの作品達が、これまで展示される機会を与えられなかった、ということが、にわかには信じがたい。
アンコール遺跡から、飛び出してきたような、細かく、独特の感覚に溢れたクメール彫刻には、思わず目を奪われる。
こちらも、地下1階にある、インドの細密画コーナーにあった作品から。
ペルシャの細密画の影響を受けて、ムガール帝国下で、独自の発展を遂げたインドの細密画。これほど細かい線を、いったい、どんな筆で描いたのだろう。
今回は、特別展のついでに寄ったので、すべてのコーナーをじっくり見ることは出来なかった。
1日あるいは半日をかけて、ゆっくりと見て回るもよし、他の展覧会のついでに、目についた作品だけを楽しむもよし。
いずれにしても、しばらくの間は、東洋館詣でをすることになりそうだ。
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