2012年10月27日土曜日

静物画の凄み〜『シャルダン展〜静寂の巨匠』より


シャルダンといえば、静物画の代名詞とも言える人物。しかし、どうしても、静物画というと、マイナーなイメージがどうしても抜けない。結果的に、シャルダンという人物に対しても、そうした印象を抱いてしまう。

三菱一号館美術館で開催された、『シャルダン展〜静寂の巨匠』では、そうしたイメージを覆すべく、ルーブル美術館を始めとする世界中の美術館からシャルダンの代表作が集結、静物画の凄みを感じさせる美術館となった。

シャルダンは、パリの職人の子供として生まれ、小さい頃から絵心があった。有名な画家の元に弟子入りし、フランドル絵画の影響を受けて、自分が、静物画を描くことに得意であることを発見、やがて、アカデミーからも認められるようになった。

シャルダンは、1つのテーマを、とことん突き詰めるタイプの人物だったようだ。同じ構図の作品が、何点か並んで展示されていた。

『すももの鉢と水差し』『死んだ野兎と獲物袋』『銅の大鍋と乳鉢』などの作品を見ていると、民衆が使っている、何気ない生活用品を、丹念に細かい筆さばきで描いているシャルダンの姿が思い浮かぶ。

また、シャルダンは、静物画だけではなく、民衆の何気ない日常を描いた風俗画家としても知られる。

シャルダンの風俗画の代表作である『食前の祈り』。幼い少女が、テーブルを前にして、食前の祈りを捧げている。母親が暖かい視線でそれを見つめている。

この作品もシャルダンは2つ描いていたようで、会場には、ルーブル美術館からとエルミタージュ美術館からの作品が展示されていた。

人間の感情を排した静物画と、情愛に溢れた風俗画。シャルダンという画家は、このまるで対照的なテーマを、実に見事に描き分けている。

シャルダンはその一方で、世渡りも実に上手だったようで、アカデミーの裏方的な仕事も黙々とこなしていた。

静物画を黙々と描いているシャルダンのイメージとは異なった人物像だが、中流階級出身の画家が、当時の社会を生き抜くためには、そうしたことが必要だったのだろう。

シャルダンの生きた時代は、いわゆるフランスのロココの時代。フラゴナールやプーシェといった華やかな宮廷生活を描いた画家達とは、まるで違ったテーマを描き続けたシャルダン。

彼の描いた、鍋やタマネギ、陶器の皿などを見ていると、何気ない身の回りにある物に後に隠された、小さな宇宙が、見え隠れしているように思われた。

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