2012年11月3日土曜日

伝統と革新の融合〜『特別展 没後70年 竹内栖鳳ー京都画壇の画家たち』


これまでは、竹内栖鳳という画家について、それほど深く知る機会はなかった。

日本画家の絵画展で、時折、何点か展示されている栖鳳の絵画を見る機会はあったが、”美しい絵を描く、伝統的な京都の日本画家”という印象しかなかった。

しかし、山種美術館で開催された、『特別展 没後70年 竹内栖鳳ー京都画壇の画家たち』によって、じっくりとその絵画に触れて、栖鳳の作品の中で、伝統的な日本画家の技法と、西洋の影響を受けた革新性が、見事に融合していることに、深い感動を覚えた。

会場を入ったすぐのところに、「斑猫」が展示されていた。上の写真の右側の絵だが、自分の体をなめるために体をよじらせた愛くるしい猫を、毛の一本一本まで描きながら、巧みに表現している。

栖鳳は、この猫を沼津の八百屋でみかけ、一目で気に入り、自らの絵と引き換えに引き取り、自宅において、ずっとその動きを観察して、この作品を仕上げたという。

その丹念な表現は、ウィーンのアルベルティーナにある、デューラーのウサギの絵を思い出させる。

金の屏風に黒い墨だけで描かれた「虎・獅子図」。栖鳳がヨーロッパを訪れ、そこでライオンの絵を多く見たことから影響を受け、帰国後すぐに描かれた作品。

近寄ってよく見ると、虎の毛の表現方法は、まるで殴り書きで、モダンアートの画家の描き方のようだ。それを、少し離れて見ると、紛れもない虎の姿が現れる。

この絵を見たとたんに、私の栖鳳に対するイメージがすっかり変わってしまった。そして、とんでもない画家に出会ってしまったことに、気づかされた。

「水墨山水」。文字通り、水墨画で描かれた山水画。水郷の風景、水や木々を描いたように見える作品だが、絵の中央に、水墨のかたまりが、どっしりとある。それは、木あるいは何かを描いた、というよりは、墨そのものを、描きたかったようにしか思えない。

これほど印象的な水墨画には、そうそう出会えるものではない。ターナーの作品に影響を受けたようにも見える。

会場には、竹内栖鳳が多くを吸収した、応挙などの江戸時代の京都画壇の画家や、上村松園などの栖鳳の弟子などの作品も展示されていた。

長沢蘆雪の「唐子遊び図」。芦雪というと、愛くるしい仔犬や、ユーモラスな竜虎の絵のイメージが強いが、この絵画は、応挙の一番弟子だった、というその実力が遺憾なく発揮されている作品。その技術力の高さと、不思議なユーモアが、見事に混在している。

栖鳳の弟子への言葉が、会場に掲げられていた。”生活の雑事に振り回されて、画家としての画心を忘れては行けません。どんな場面に出会っても、画家は、その画心で、その風景、対象を捉えなければならないのです。”という趣旨の発言が、紹介されていた。

栖鳳のすべての絵画には、紛れもない、その画心が表現されている。

0 件のコメント:

コメントを投稿