2012年11月17日土曜日

あまり知られていない明・清代の水墨画の世界〜泉谷博古館


六本木一丁目の泉ガーデンタワーの傍らに、ひっそりと存在する泉谷博古館。その10周年を記念する特別展の第4弾では、中国の明、清代の個性的な画家の作品を中心にした、住友コレクションが展示された。

清の時代には、異民族による王朝の成立、西洋の影響を受けて、宋以来の伝統的な水墨画とは違った、独自の水墨画が生まれた。

この展覧会では、日本では、あまりまだポピュラーではない、そうした水墨画の数々を、十分に楽しむことが出来た。

展覧会の目玉になっていたのは、八大山人の「安晩帖」。ほぼ真四角の手帖の1ページに、鳥や猫、植物などが、まるで抽象画のような、独自の筆さばきで描かれている。

日本人が特に好む、牧谿のようなその水墨画の数々は、確かに見応えがある。およそ20枚ほどある作品は、会期中にページをめくり展示替えされている。

私が訪れた際は、木の枝に、一羽の鳥が止まっている、という図が展示されていた。一筆ので描かれた枝の線、その上に止まる鳥は、墨の太い線と、細い線で描かれている。ほとんどが何も描かれていない空白だが、その微妙な配置は、まさに絶妙。

八大山人は、明末期に王族につながる家庭に生まれたが、清王朝の成立で状況が一変し、複雑な人生を送った人物。彼には、絵を描く明確な理由があったのだろう。

同じく清時代の漸江の「竹岸蘆浦図巻」。水墨画には珍しく、ほとんどが細い線だけで描かれている。無数の竹の葉を、細かい線で丹念に描いている。これまでに見たことがないような、不思議な水墨画だ。

沈銓の「雪中遊兎図」。中国では無名の画家でありながら、日本の長崎で3年暮らし、円山応挙などの京都の画家に大きな影響を与えた。その鮮明で色鮮やかな画風は、伊藤若冲の作品にもその影響の跡を残している。

展覧会の出品作の中で、唯一の国宝。南宋時代の「秋野牧牛図」。文字通り、秋の野に、牛を放牧している風景。人物はわずか二人。一人が相手の耳を掻いてあげている。数頭の牛達は、歩いたり、身を横たえたりと、思い思いに秋の日をくつろいでいる。

これぞ、宋代の水墨画の典型といえる、人間と自然の理想を描いた心象風景。いつまでも見ていたい水墨画だった。

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