2012年10月7日日曜日

ベルギーの巨匠アンソールの全貌


ベルギーの画家の中では、ルーベンスについで最も評価が高い、といわれるジェームズ・アンソールは、日本ではまだあまりメジャーな画家とは言えない。

そのアンソールの生涯にわたる作品を概観できる展覧会が、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で開催された。アントワープ国立美術館からの作品群で、およそ1年間をかけて、日本各地を巡回するという大規模な企画。

アンソールの画風は、大きく2つにわけられる。1860年生まれのアンソールは、1890年くらいまでは、過去の偉大なフランドル画家達や、フランスの印象派の影響を受けて、風景画や人物画を描いていた。

タッチは粗く、色は、青い空や海を描く際も、くすんだ色で描いており、このままのスタイルを生涯貫いたなら、今日、アンソールはこれほど有名な画家にはならなかっただろう。

1890年頃から、その画風は一変する。この展覧会のポスターに使われるている、グロテスクな仮面や、骸骨を描く画風に変わっていった。

アンソールの作品で、最も印象に残ったのは、『悲しみの人』という作品。キリストの顔がアップになっているが、頭には茨の冠を被り、顔は血だらけになっている。実にグロテスクな絵画。

そうしたグロテスクな絵画の背景には、ヒエロニムス・ボスやピーテル・ブリューゲルといった同じ地域の先人達による、不思議な作品群があった。アンソールは、そうした過去の偉大な画家達の伝統を引き継いで、現代に置けるベルギーを代表する画家になったのだ。

会場には、ピーテル・ブリューゲル(子)による、フランドル地方の諺をそのまま絵にした絵も展示され、テニールス(子)の『聖アントニウスの誘惑』には、空飛ぶカエルや魚などの、不思議な生き物達が描かれていた。

アンソールは、当時のヨーロッパで流行していたジャポニズムにも影響を受けた。父親が貿易商を営み、中国や日本の物産を扱っていたのも、関係していたのかもしれない。北斎漫画を模写したと思われる、小さなデッサンが、会場に展示されていた。

日本では、その全貌があまりよく知られていないアンソール。この展覧会では、そのアンソールの作風を、他の画家達との作品と見比べながら、たっぷりと味わえる、貴重な機会だった。

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