美術・芸術関連の展覧会に行った時の感想をアップします。もし興味があったら、ご覧ください。My comments to the art exhibitions in Japan.
2012年10月21日日曜日
デルヴォーの夢の中の世界
ポール・デルヴォーというと、暗い夜の風景で、なぜかヌードの女性達と鉄道が描かれている、そうした不思議なイメージの絵画を描く画家、いわゆるシュールレアリストの画家、というイメージが強い。
府中市美術館で開催された”ポール・デルヴォー展 夢をめぐる旅”では、デルヴォーの初期の作品から、最晩年に至るまでの作品が展示され、その不思議な画家の、全貌をかいま見ることができた。
デルヴォーは、1897年にベルギーのリエージュで生まれ、幼くしてブルージュに転居し、人生の大半をその町で過ごした。
始めは、印象主義派の影響を受けた風景画などを主に描いていた。会場には、その頃の作品が、何点か展示されていた。川縁の風景、港の風景、森の中の風景など。
デルヴォーが、そのままの画風で絵を書き続けていたら、今日、私たちは、彼の名前を知ることはなかっただろう。
その後、キリコや、シュールレアリストの画家達の影響を受けて、次第に、あの不思議な絵画を描くようになっていった。
デルヴォーは、自分では、シュールレアリストの影響を受けたことを認めてはいたが、自分をシュールレアリストの画家とは思っていなかったという。
デルヴォーは、1つの作品を完成するまでに、多くのデッサンを描き、その構成を慎重に決めていた。他のシュールレアリスト達のように、即興的に描いたり、自動記述のような方法は用いなかった。
会場には、そうした多くのデッサンが展示されていた。同時に、その完成版の絵も飾られていたが、デッサンの構成と完成版では、人物の位置や背景が異なっている。そこには、デルヴォーによる様々な構想の跡が感じられた。
デルヴォーの絵画には、本人の夢の中の登場する様々なイメージがそのまま描かれている。同じ顔の女性(初恋の女性)、ヌードの女性、線路と鉄道、ギリシャ風の建築物などなど。
デルヴォーは、生涯にわたり、そうしたテーマを描き続けた。その意味では、幸せな人生だったのだろう。彼自身も、自分の絵画を見る人たちにも、その幸せを感じて欲しい、と語っていた。
デルヴォーの絵画を一度でも目にしたことがある人は、その強烈なイメージを心に焼き付ける。画家の名前は忘れても、そのイメージは深く心に残る。それは、デルヴォーの描くイメージが、単に、彼個人のものではなく、私たちに共通した、普遍的なイメージであるせいなのかも知れない。
デルヴォーは、1989年に、初恋の人で、その後奇跡的な再会を遂げて結婚したタムが、インフルエンザで亡くなった時に、筆を置き、その後、絵画を描くことがなかった。タムは、生涯にわたり、デルヴォーの創造力の源だった。
その最後の年に、描かれた絵画(「無題」)が会場に飾られていた。そこには、赤いベールをまとった女性が描かれている。すでに年老いて、タッチが乱れ、あのデルヴォーらしい絵画ではないが、そこには、明らかに、最愛の人、タムの姿が描かれていた。
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