2012年5月26日土曜日

絵筆を持たない芸術家の作品〜五浦と岡倉天心の遺産展より

日本橋の高島屋で開催された、五浦と岡倉天心の遺産展、を見た。

昨年の東日本大震災による津波で、茨城県の五浦にあった六角堂は流されてしまった。それがこのたび再建され、その記念として、この展覧会が企画された。

岡倉天心の肖像画、彫刻、ボストンでの暮らしに使っていた日常品、手紙類、あるいは、横山大観を始めとする日本美術院のメンバーの作品などが展示されていた。

百貨店の展覧会ということで、少し軽い気持ちで訪れたが、岡倉天心という人物の魅力に、心の随まで捉われてしまい、期せずして、心に深く印象の残る、忘れがたい展覧会となった。

岡倉天心は、東京美術院の校長を辞し、日本美術院を創設したが、次第に運営に行き詰まり、9ヶ月のインド旅行の後、心機一転、この五浦に移り、弟子の横山大観、菱田春草、下村観山らとともに、日々、芸術活動に明け暮れた。

彼らは、五浦の海沿いの広大な土地に、それぞれ大きな家屋を建てた。塩出英雄の『五浦』は、まさにそうした風景を描いている。それは、まるで芸術家のユートピアのように見える。

横山大観と下村観山による『竹の図』。大観は左手に、まっすぐな竹を、観山は右手に、丸く曲がった竹を、それぞれ、金箔の地の上に、墨の黒い色の濃淡だけで描いている。ただただ美しい。ずっと、この絵を見ていたくなる。

岡倉天心は、ボストンでボストン美術館の東洋美術のキュレーターをしている時、『白狐』というオペラを構想していた。その原稿も展示されていた。

弟子の一人が、岡倉天心のことを、”絵筆を持たない芸術家”と呼んだという。その見えない絵筆で描かれた岡倉天心の作品は、今日の私たちをも、魅了し続けている。

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