2013年2月9日土曜日

トレドと上野でグレコの絵を見て味わった感動〜エル・グレコ展(東京都美術館)


上野の東京都美術館で開催された、エル・グレコ展を見た。

世界中の美術館から、50点を越える作品が集結した、大規模なこのグレコ展にあって、その目玉とも言えるのが、会場の最後に展示されていた、無原罪のお宿り、だった。

3メートルを越えるその大作が、展覧会の最後の部屋で、観客を出迎えている。

キリストの母である聖母マリアが、原罪を持たずに生まれた、というキリスト教の教えをテーマとした絵画は、グレコのみならず、ムリーリョを始めとして、多くの画家が描いている。

このグレコの作品は、そうした数ある作品の中でも、最も印象的な作品の一つだろう。

画面の中央には、この絵の主人公である聖母マリアが、グレコ独特の、引き延ばされた存在として描かれている。

地上にはトレドの風景が描かれ、精霊の一人が、聖母マリアと地上の間で翼を広げている。野に咲く、薔薇とユリの花は、聖母マリアの象徴でもある。

聖母マリアの上半身は、すでに天上界に届いており、マリアの顔を中心に、円を描くように、精霊や天使が描かれている。

マリアの目は、羽ばたく一匹の白い鳩を見つめている。グレコの絵にたびたび登場するその鳩は、神からのお告げをマリアに伝えている。

この絵は、トレドのある礼拝堂の主祭壇を飾るために描かれた。およそ6年の歳月をかけて描かれ、グレコは、この絵を完成した翌年に、73才で亡くなっている。

この絵の印象があまりに強烈なため、この日、それまでに見てきた絵を忘れてしまいそうだ。

しかし、この展覧会には、グレコが生まれたクレタ島にいたころに描かれたと考えられるイコン画や、スペインに行く前に、ローマで描かれた作品など、普段は、あまり目にしない貴重な作品も展示されている。

宗教画と並んで、グレコが数多く描いた肖像画も多く展示されており、印象に残った。

グレコの肖像画は、顔の表情は勿論のこと、手先の描き方に特徴がある。何かを掴んでいたり、自分の胸に手を当てていたり、あるいは、本のある箇所を抑えている手など。

その描かれている人の性格、そのコンテキストに応じて、その人物の特徴をもっともよく表す手の表情をグレコが模索していたことが、見て取れる。

数年前に、グレコの絵を求めて、トレドの町を訪れれたことがあった。古いトレドの町は、細い通りが入り組んでおり、その中を、グレコの作品を展示している美術館や教会を求めて、一日中、歩き回ったことを思い出す。

展覧会の会場は、入り口から出口まで、広い一本道で、道に迷うことはない。しかし、グレコの絵を見ることで味わえる感動は、あの日の感動と、同じものだった。

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