2013年2月23日土曜日

豊潤な美術、貧困な概念〜オリエントの美術(出光美術館)


日本美術やルオー、ムンクなどのコレクションで有名な出光美術館は、オリエント美術の分野でも、国内有数のコレクションを有しているという。

出光美術館で、そうした作品を展示する、オリエントの美術、という名の展覧会が開かれた。

紀元前4,000-3,000年期のイランの壷や食器には、羊などの動物の絵が描かれている。デザイン化された、そのシンプルなイメージは、まるで現代のイラストのよう。当時の人々のデザインセンスの豊かさに感銘を受ける。

紀元前7世紀のエジプトで作成された、朱鷺の青銅の像。まるで、目の前に本物の朱鷺がいるような、その写実的な表現は、壁画の様式的なファラオ像などのエジプト美術のイメージを、大きく裏切る。

文明の発展とともにエジプトに生まれた、そうした写実的な精神は、やがて対岸のギリシャに伝わり、ギリシャ美術を生み出すことになった。

紀元前2,000年頃のシュメールの楔形文字が刻まれた粘土版。人類が、初めて文字を生み出したその現場に、まるで立ち会っているような不思議な感覚を覚える。

ローマ時代に、吹きガラスの技法が生み出されるまでは、ガラスは透明なものではなかった。その技法前と後の作品が一堂に展示され、技術の進歩を目の当りにすることができる。

透明でないガラス器の数々は、現代から見ると、新鮮に見える。

最後のコーナーには、イスラム美術の数々が展示されていた。

イランには、古代より絵画芸術の伝統が息づいている。イスラム教では、偶像崇拝は禁止されているはずだが、イスラム化した後のイランでは、その伝統は途絶えることはなかった。

美しいラスター彩などの陶器には、動物や人物像などの多彩なイメージが描かれている。陶器ということもあるが、その描き方は実に素朴で、微笑ましい。

トルコのイスタンブール近郊のイズニックで生まれたイズニック陶器。現代では再現が難しいといわれる”血の赤”の鮮やかな赤色は、深い印象を残す。

そして、イスラム美術を代表する細密画の数々。イランに生まれた細密画の技術は、インドやトルコにも伝わった。

文字通りのその細かい描写に、思わずガラスに顔を近づけて覗き込んでしまう。一体、どんな細い筆を使って、これらの絵は描かれたのだろうか?インドでは、リスの毛を使っていると聞いた。

それにしても、サイードの有名な本を引くまでもなく、オリエントという概念は、実にあいまいな概念だ。

この日の展覧会は、オリエントの美術という名称だが、時間の長さでは、およそ5,000年間。地域でいえば、イラン、イラク、エジプト、トルコ、そしてローマ。

つまり、時間的にも地理的にも、ほとんど人類史に近い範囲をカバーしていることになる。

オリエントの名を冠して開催されたこの展覧会は、皮肉にも、その美術の豊潤さと、その概念の貧困さを、明確に対比することになった。

0 件のコメント:

コメントを投稿