日本において、ターナーの作品を目にする機会はあまり多くない。
時々行われる、海外の美術館の展覧会に置いて、何点かの作品を目にするくらいだ。
まとまったターナーの作品を目にしたければ、どうしても、ロンドンのナショナルギャラリーを訪れなければならない。
渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで行われた、巨匠たちの英国水彩画展、でターナーの作品が展示されると聞いても、せいぜい何点かの作品が展示されるだけだろうと思っていた。しかし、その予想は、いい意味で大きく裏切られた。
水彩画ながら、ターナーの作品がおよそ30点も味わえる展覧会など、そうそうあるものではない。
しかも、若き20代の頃の作品から、晩年の70才頃の作品まで、その生涯の画風の流れが、水彩画によって辿れる。
若き頃の作品、旧ウォルシュ橋を描いた作品では、小さく描かれた人物や、遠くに見える橋梁まで、実に細かい筆使いで見事に表現している。
かと思えば、晩年の有名なヴェネツィアを描いた作品では、建物や人物の輪郭は消え、すべたは光の波の中にぼんやりと浮かんでいるだけのように、描かれている。
ターナーは、それまでの”物”を描く絵画から離れ、そうした物が含まれている”世界”そのものを描こうとしたのではないか、と思えた。
ターナー以外の作家で目を引いたのは、ウィリアム・ブレイク。『ヨーロッパ』という書物のための挿画。日の老いたる者。腰を屈めた、老人の白い髪の毛が、風のせいか、まっすぐ横になびいている。背景の太陽と周りの雲が赤く描かれ、その白と赤の対比が印象的だ。
ブレイクの作品はわずか3点だが、他の2作品も、一度見たら忘れることが出来ないほどのインパクトのあるものだった。ブレイクのインスピレーションの豊穣さに、改めて感心した。
厳密には水彩画とは言えないが、バーン=ジョーンズの、ペスセウスとネレイスたち、という作品のための習作。女性の顔だけのデッサン。少ない線で、横を向いた女性の表情を見事に描いている。
水彩画ということで軽い気持ちで訪れたが、ブレイクの作品が多かったこともあり、かなり長い時間を美術館で過ごしてしまった。これだから、美術館巡りはやめられない。
0 件のコメント:
コメントを投稿