東京国立博物館で開催されていた『特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝』を見た。
この展覧会の宣伝文句には、”ボストン美術館の史上最大規模の日本美術展”と記されていたが、その言葉に誤りはなかった。
この特別展の目玉の1つは、ボストン美術館が誇る曾我蕭白のコレクション。会場では、最後のパートがまるまる蕭白にあてられていた。
どんな言葉を使ったとしても、これだけの蕭白作品を目の当たりにした時のその気持ちを、正しく表現することは、とてもできないだろう。
会場のあちらこちらから、「凄い」、「すごいねえ」、「スッゲエ」、という声が聞こえた。まさにその通り、凄い、という言葉しか、他に浮かぶものはなかった。
圧巻は、やはり、『竜雲図』。縦165センチ、横135センチの襖絵が8枚、およそ10メートルの大作が、展示場を支配する。1匹の巨大な竜が、鑑賞者を睨みつける・・・と思いきや、よく見ると、その顔はどこかコミカルだ。
右端に、蕭白は、自分の名前と、34才というこの絵を描いた自身の年齢を記している。それはまるで、「どうだ。俺は34才にしてこんなとんでもない絵を描いたのだ!」と言っているかのようだ。
絵に近づいてよく見て見ると、竜の鱗の1つ1つを、陰翳を付けながら、丹念に描いている。また、筆を振った際に飛び散った、墨の雫もそのまま残されている。この絵を描いたときの蕭白の気迫が、そのまま絵の中に閉じ込められている。
他にも何点か蕭白の作品が展示されている。蕭白の代表作とも言える『風仙図屏風』。
一人の仙人が、干ばつに苦しむ農民たちのために、池に潜んでいた竜を追い出し、恵みの水をもたらすという場面。黒雲となって空にのぼる竜が、屏風の左半分で、とぐろを巻いている。右側では、農民たちがその竜が巻き起こした風に飛ばされている。よくみると、小さなウサギが2匹、その様子に目を丸くしている。画面の中央では、仙人が、剣を手に、竜を池から追い出している。
屏風の左手に描かれている、竜がとぐろを巻いている部分が、とにかく凄い。蕭白は、その黒い物体で、まるで、自然の中にあるエネルギーの固まりを描いているようだ。
この展覧会のもう一つの目玉は、『吉備大臣入唐絵巻』と『平治物語絵巻 三条殿夜討巻』の2つの絵巻物。
『吉備大臣入唐絵巻』は、吉備大臣が唐で妖怪たちを相手に活躍する物語を描いているが、内容がコミカルで、現代のマンガを楽しむような感覚で、肩の力を抜いて楽しめる。
一方の『平治物語絵巻 三条殿夜討巻』は、夜討の場面とあって、緊張感に溢れている。夜討をかける側と、それを迎え撃つ、あるいは逃げる側。よくみると、一人一人の表情もこまかく描かれている。高位の人物と下位の人物では、着物の柄や、身につけている武具が全く違う。そこから、主要な登場人物は、すべて特定できるだろう。
打ち取られた首が、槍の先にさされている場面が、とても印象に深く残った。
この他にも、8世紀の奈良時代に描かれた『法華堂根本曼荼羅図』。平安や鎌倉時代の菩薩像の数々。尾形光琳の『松島図屏風』。伊藤若冲の『十六羅漢図』、『鸚鵡図』なども展示されていた。
東京国立博物館の『特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝』特設ページ
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