2012年6月2日土曜日

ヨーロッパ絵画の歴史をたどる〜大エルミタージュ美術館展


新国立美術館で開催された、”大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西洋絵画の400年”を見た。

16世紀のルネサンス絵画から、20世紀の現代絵画まで、ルネサンス以降のヨーロッパの絵画史をたどる、野心的な意図を持った展覧会だった。

絵画作品だけで、16,000点以上を収蔵するというエルミタージュ美術館だからこそ、こうした企画を、それほど期待を裏切らずに、実現できたのだろう。

会場は、世紀ごとにルネサンス、バロックなどに分けられ、展示場の壁の色を変えるなど、工夫がなされていた。

16世紀 ルネサンス:人間の世紀。ティツィアーノ、ウェロネーゼ、ティントレット、レンブラント派などの作品が並んでいた。

ロレンツォ・ロット『エジプト逃避途上の休息と聖ユスティナ』。左胸にナイフの刺さった聖ユスティナが、眠る幼子イエスに祈りを捧げている、というグロテスクな絵画。眠っているイエスの顔は、まるで死んでいるようで、シュールだ。

ランベスト・スストリス『ウェヌス』。女神が室内でベッドの上に横たわっている。右手には、森の風景が描かれている。よくある構図の絵画。しかし、この女神の裸体が、明に白く、ボッテリとしていて、よくいわれる”マグロ”のように見える。

17世紀 バロック:黄金の世紀。ルーベンス、ヴァン・ダイク、レンブラント、ライスダール、ヤン・ステーンなど。

ルーベンス『ローマの慈愛』。餓死の刑を宣告され、牢につながれる哀れな父親に、娘が自分の乳を与えるという、これまたシュールな絵画。異常な世界が、ルーベンスのリアルな絵画技術で表現されている。ある意味で、バロック絵画の本質を表している。

18世紀 ロココと新古典派:革命の世紀。プーシェ、ランクレ、クルーズ、シャルダン、ユベール・ロベール、ヴィジェ・ルブランなど。

ランクレ『踊るカマルゴ嬢』。当時、フランス宮廷で、その容姿と踊りの巧みさで、ミューズともてはやされていた女性が、森(のセット)で、楽団を前にして踊っている。

ランクレの典型的なロココ絵画。美しい絵画だが、どこかで、はかなさや空しさを感じてしまう。人間が誰もが抱えている、悩みや苦しみが、そこにはまったくない。表面的な世界だけが、そこには表現されている。

私の大好きな、ヴィジェ・ルブランの『自画像』。以前、三菱一号館美術館で開催された、彼女の展覧会でも展示されていた。

フランス革命を逃れ、ロシアで絵画を描いていた頃の自画像。絵筆を握りながら、モデルを振り見た瞬間を描いている。宣伝のためでもあり、自らの姿を後世に残すためでもあったろう、その絵画を見ると、当時、働く女性が珍しかった時代に、自らの技術だけを頼りに、ヨーロッパの宮廷で、したたかに生き抜いた女性の真実を感じる。これこそが、真実の絵画だ。

19世紀 ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀。ドラクロア、コロー、シスレー、モネ、ルノワール、ドニなど。

レオン・ボナ『アカバの族長たち』。岩山と砂の風景の中を、アラブの族長たちが馬と徒歩で進んでいる。アラビア半島の乾いた空気、砂の雰囲気などが、みごとな絵画技術で描かれている。

ジェイムズ・ティソ『廃墟』。戦闘で廃墟となった建物の中で、二人の庶民と、キリストが腰を下ろしている。神なき時代を皮肉ったような、不思議な雰囲気の絵画だ。

20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの時代。マティス、ピカソ、アンリ・ルソー、マルケ、ドラン、キース・ヴァン・ドンゲン、デュフィなど。

マティスの『赤い部屋』が話題になっているが、もう一枚展示されていた『少女とチューリップ』も美しかった。薄緑のブラウスの少女が、テーブルの上のチューリップを前に、なにやら物思いに耽っている。

使われているひとつひとつの色は、いずれも中間色で、美しいということはないのだが、それが1つのキャンバスに重ねられると、美しい色合いに変化する。まさに、マティスのマジック。

ヨーロッパの絵画の歴史を、駆け足でたどるこの展覧会。その400年の歴史を概観してみると、当たり前のことだが、ヨーロッパの絵画とは、ヨーロッパ人が、どのようにこの世界を見てきたのかを、そのまま描いてきたのだなあ、という思いを強くした。

大エルミタージュ美術館展の特設ページ

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