2012年6月16日土曜日

至福の中国絵画コレクション〜山水画で何を描いたのか?

静嘉堂文庫で開催された、『東洋絵画の精華 至福の中国絵画コレクション』展を見た。

13世紀の南宋時代から、清の時代に至るまでの、山水画を中心にした、中国絵画の数々が展示されていた。

牧谿の『羅漢図』。牧谿は禅の僧侶であった。牧谿の絵画というと、一匹の鳥や、抽象絵画のような風景画がよく知られているが、この絵は、牧谿の絵画としては、実に丹念に描き込まれている。

岩山の風景の、画面の中央に、一人の羅漢が座禅を組んでいる。その異様な白い眼は、まるで映画『スターウォーズ』のダースシディアスの眼のようだ。羅漢の”気”とも言える、ただならぬ雰囲気が、その周りを取り巻いている。

道元が『正法眼蔵』の中で、”人が悟るのか、山野が悟るのか”と述べたことが、この絵には表現されているように思えた。

南宋の山水画を代表する二人の画家の作品と考えられている、伝馬遠の『風雨山水図』と伝夏珪の『山水図』が展示されていた。

伝馬遠の『風雨山水図』は、遠近を墨の濃淡で表現し、岩山、水辺、木々、そして大自然の中に、ひっそりと佇む館、豆粒のような人間。すでに、そこには、山水画が早くも到達した極地が描かれている。

伝夏珪の『山水図』。画面の右上から、左下に流れる三角形の構図が美しい。そこでも、遠くにかすむ岩山、水辺、へばりつくように建つ家、橋の上を歩く、小さく描かれた人物、などが描かれている。

山水画を求めたのは、そうした自然に暮らす人々ではなく、宮廷で、自然とはある意味で無縁の暮らしをする人々だった。彼らは、何を山水画に求めたのだろうか?息抜き、そこに行きたいという気持ち、あるいは、心の中にある理想の暮らしだったのか?

明代以降になると、まだ比較的新しいせいか、画面がパッと明るくなる。

陸治の『荷花図』。荷花とは中国語で蓮の花のこと。山水画と違い、博物画のように、蓮の葉と花が、細い線と美しい色合いで描かれている。背景にある、岩のゴツゴツとした感じとの対比が素晴らしい。

沈南蘋の『老圃秋容図』。江戸時代に長崎に来日し、およそ2年ほどその地で過ごし、当時の日本の絵画に大きな影響を与えた沈南蘋。一匹のネコが、岩肌に咲く朝顔にとまった虫を狙って、今まさに飛びかからんとしている。派手すぎず、しかし美しい色合いで、華やかに表現されている。

日本の画家の作品と言われても、そのまま納得してしまう。いかに、沈南蘋が日本の画壇に影響を与えたのかがよくわかる。

これほど、まとまった中国絵画の名品を鑑賞する機会は、あまりなかった。その神髄に触れることができた、貴重な時間だった。

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