アラブ・エクスプレス展という名前の、東京の森美術館で開催された展覧会は、自分の中に持っている、”アラブ”という概念について、改めて、”アラブって何?”、と、問いかける機会を与えてくれた。
昨年の春から始まった”アラブの春”。今もシリアでの内戦という悲劇で、アラブという存在は、ニュースを通じて、私の日常に入り込んでいる。
しかし、アラブのアートは?
リーム・アル・ガイス「ドバイ:その地には何が残されているのか?」。ドバイの世界最高層ビルであるブルジュ・ハリファの建築現場を再現した作品。
トム・クルーズの「ミッション・インポシブル」でのロケ地としても使われたが、同じ対象を、どのように表現するのか。その違いが、如実に現れていて妙味深い。
マハ・ムフタファの「ブラック・ファウンテン」。石油を想わせる黒い水が、高く湧き上っており、その跳ね返った黒い水滴が、周囲に飛び取っている。
この黒い水の湧き上る音、下に落ちる音。その音がこの部屋に響いており、写真で見ただけではわからない、圧倒的な存在感を感じさせる作品。
森美術館が地上53階にあるため、背景に、東京の風景が望める。それも、この作品の一部になっている。都市の生活は、黒い水”石油”によって支えられ、そこからは、また別の黒い水”排水”が大量に流されている。
ラミア・ジョレイジュの「ベイルート−ある都市の解剖」。
ベイルートに生まれ、現在もそこに暮らすラミアが、この都市について、古代から最近の内戦などの歴史的な資料や写真と、現在の町の様子などの写真や映像を、年表風にまとめた作品。
この作品を見ると、”歴史”というものは、客観的なものではなく、つねに誰かの歴史であるということがよくわかる。勝者の歴史、敗者の歴史、私の歴史、あなたの歴史・・・。
会場を後にして、考えた。果たして、私が今見たものは”アラブのアート”だったのか?、それとも、単なる個々のアーティストの作品だったのか?
そのどちらでもあり、そのどちらでもないような気がする。
ただ一つだけ言えるのは、どの作品も、そのアーティストの身の回りで起こっていることが、そのアーティストなりの手段で、表現されていた、ということだった。
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